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ロイス・アン
《錬金術国家I:器官なき身体》
2021年
日本語(一部字幕) 28’49”
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*HD配信ですので、安定した視聴環境でご覧ください。
最も個人的な身体という領域が、大きな政治の意思と解きほぐせないほどに深く結びついています。薬剤開発の目的で、人為的にウイルス感染させる臨床試験が行われた例も少なくありません。このジャーニーでは、国家の暴力に苛まれる身体を通して、スペキュラティヴな未来を描き出していきます。
ロイス・アンの新作《錬金術国家Ⅰ:器官なき身体》(2021)は、第二次世界大戦時、旧満州で密かに細菌兵器を開発し、「死の工場」として語り継がれてきた731部隊を題材にしています。内臓を抉るサウンドと目に焼きつく閃光を放つ実写とCGのモンタージュが、漆黒の闇の中で拠り所のない身体の知覚を探り出しています。人体実験にメスをとる人物は、罪から逃れようとするように偏執的に手を洗い、その姿が新型コロナウイルスに揺れる不安と焦燥に重なり合います。
主人公となるのは、731部隊を率いる細菌学者 石井四郎と、京都学派の哲学者 西谷啓治が融合した「メスを持つ哲学者」。この二人を通じたアンの歴史的省察が、ドゥルーズ=ガタリの身体論や禅仏教と溶け合いながら、終末後の世界を示唆するフィクション理論として構成されています。そして、「アジア共有」の精神基盤の上に新国家を打ち立て、世界史を更新することを目論んだ過去の亡霊が、未来の国家像なかに抗い難く浮き上がってきます。
「満州の死... それは戦後アジア誕生の基盤である」| 山本浩貴(文化研究者)
「西洋列強に対して、東洋の精神を参照した哲学で戦っていたのが西谷啓治をはじめとする京都学派ですが、彼らの意図に反してその思想からアジア侵略のロジックを導き出されてしまいました。近年のアートシーンでは、この歴史を視覚的に再考するアプローチが増えており、ロイス・アンの作品も系譜の一つとして語れるでしょう」View Now