/

Shita (Under)

下(アンダー)

ジョシュア・オコン

1.
ジョシュア・オコン
《下(アンダー)》
2018年
彫刻 音声なし 3’21”
2021年

View Now

東京23区の面積約10分の1、およそ6,000ヘクタールの港湾部エリアは、埋立地です。家庭でのごみの分別やエコロジカルな処理技術の開発がうたわれる一方で、問題の根本である商品の過剰生産それ自体を抑制していこうとする動きは十分に検討されてきたとは言えません。同時に埋立地では、公共インフラをはじめコンテナターミナル、コンベンションセンターやモールなど、人々を消費に駆り立てる巨大施設が建設されていきました。

ジュエリー広告を思わせる、エレガントな映像手法で描き出されるのはジョシュア・オコンによる彫刻《下(アンダー》。彫刻は、長い年月をかけて結晶した天然鉱石のようでありながら、実はごみや焼却灰を溶かし、急激に冷やして砂状にした溶融スラグで作られたものです。ゆっくりと回転するこの人工の「鉱石」は、金属の混入物によってときにガラスのように鋭く光を反射します。視覚と情報、表層と実体の辛辣な関係性のはざまで、この作品は、ただ見ることを要求しているのです。

2.
ジョシュア・オコン
《下(アンダー)》
2019年
映像 音声あり 5’12”
2021年

View Now

メタンガスの匂いが漂う中、埋立て作業を終え緑化をはじめる「中央防波堤外側処分場」。緑が続く地表の下には、1977年から東京都が排出した5,500万トンの産業・家庭廃棄物が、海面から30メートルの高さまで堆積しています。生産と消費の結果として生み出される膨大な廃棄物の堆積——社会問題となった50年前の「夢の島」から大きく改善した点があるとすれば、計画的に整備された処分場のランドスケープであり、そこに現れる緑の光景です。

大自然や野生生物の生態を描くネイチャードキュメンタリーの手法を用い撮影された本作は、廃棄物を周到にコントロールする共同幻想を生み出しながら、一方で自然を商業化し、さらなる消費活動を促す環境政策を指摘しています。世界中から集まった商品は、生産に従事した労働者の時間の堆積であり、それはやがて地層の中に埋められていきます。市場価値を失った素材が端正な土地に造形され、新たな開発事業の拠点となるさまは、巨大な経済プロセスにおける価値再創出のアイロニーといえるでしょう。環境問題を啓発し、その意識を消費者に内面化させる一方で、市場メカニズムを支える商品の過剰生産と、土地開発をめぐる民間と行政のパートナーシップは進みます。地下30メートルの堆積物を覆い隠す緑は、こうした根本的な矛盾を表層のイメージ戦略によって覆い隠すガバナンスのあり方に言及しています。

撮影地からほど近い「海の森水上競技場」は、ボート、カヌースプリントの競技場として整備され、東京2020オリンピック・パラリンピック大会の会場として利用されています。


ジョシュア・オコン (1970年メキシコシティ生)

ドキュメンタリーや即興をおり交ぜ、フィクションと現実が交わる状況を作り出すオコンの作品は、ビデオカメラを前に行われる社会的実験となり立ち現われます。政治的断層の特異性に分け入り、さまざまな団体の主張とその正当性をめぐる問題を探る映像作品は、現代社会に引き起こる対立を明確にする一方で、独特のユーモアで視点を切り替えるオコンの手法が、一方的な意見の対立を乗りこえた認識の先へと鑑賞者を促していきます。


3.
ジンジャー・ウルフ=スアレズ
作品解説
2021年
映像 音声あり 7’08”
View Now

2019年に東京で制作されたこの作品は、その後、世界中を旅し、それぞれの地域の状況を受けて、解釈を新たにしていきました。新自由主義のメディア戦略として、見えるものと見えないものを対比するこの作品は、アメリカ・ジョージア州で侵食されつつある海岸線や先住民との歴史問題を背景に読み直されていきます。ケネソー州立大学大学ザッカーマン美術館の行われた展覧会「It's Your World for a Moment」(2020年)をキュレーションしたジンジャー・ウルフ=スアレズが解説します。

Join 0-eA


ジョシュア・オコン

『下(アンダー』

2021年9月3日 [オンライン開催中]

ASAKUSA

*オンライン展は期間限定となります


本作《下(アンダー)》は、2018年にASAKUSAのコミッションにより、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、台東区芸術文化支援制度、公益財団法人朝日新聞文化財団、メキシコ合衆国文化庁FONCAの助成を受けて制作されました。

Yoshua Okón: Project supported by Fondo Nacional para la Cultura y las Artes

「テクノロジーとしてのアート展」(オンライン)

主催:アサクサ

協賛:0-eA

助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

技術協力:山形一生


「満州の死... それは戦後アジア誕生の基盤である」| ロイス・アン

「死の工場」として語り継がれてきた731部隊。日本軍の人体実験でしられる細菌兵器の開発が、東洋哲学と結びつき、新冷戦とパンデミックの世相に溶け合う。内臓を抉るサウンドと目に焼きつく閃光の中、技術、国家、身体をめぐりるフィクション理論のアートフィルム

Return to Top